CAMPセミナー@名古屋  「自分と向き合い、確かな自分を持つことが、人生を好転させていく。」

2017年8月に開催されたCAMPセミナー@名古屋。今回は、元ソフトボール女子日本代表監督の宇津木妙子さんをお招きしました。シドニーオリンピックやアテネオリンピックで日本代表チームを率いた宇津木さんは、長年にわたって日本ソフトボール界を牽引してきた指導者。二度のオリンピックでは共にメダルを獲得し、日本中に感動を与えました。ラクロス部に所属する学生を中心とした約100名に向けて語ったのは、アスリートの先輩としての貴重な経験談。CAMPキャプテンで『はたらクリエイティブディレクター』の佐藤裕とのセッションの様子をレポートいたします。

「はたらくとは、責任を果たし、期待に応えること」
佐藤 裕(以下、裕):今日の学生の多くは、ラクロス部の選手ということで、「アスリート×はたらく」というテーマで話を進めていきたいと思います。宇津木さんはこれまでアスリートとして、「はたらく」ということにどんな意識を持たれてきましたか?

宇津木 妙子さん(以下、宇津木):私は、高校を卒業してから13年間、ユニチカ垂井というチームでプレーしていましたが、ソフトボールの練習だけでなく毎日15時までは会社で働いていました。福利厚生課という部署だったのですが、当時のユニチカには寮生活を送っている社員が3千人ほどいて、午前中はその寮の郵便物の配達を行ってました。そして午後の仕事は、寮のトイレ掃除。最初は「何でこんな仕事をしなきゃいけないの?」と泣いていたのですが、上司が、「これが福利厚生課の仕事なんだ。これは誰かがやらなきゃいけない仕事だ。その“誰か”はお前なんだぞ」と。
はたらくとは、お金を稼ぐことです。お金を稼ぐためには、職場の中で期待に応えなければいけません。そして、期待されている以上は、その仕事に対する責任を持つ必要がある。13年間この会社でいろんな仕事を経験する中で、自分の責任を果たすことの大切さを学びました。

裕:貴重なご経験をされたんですね。宇津木さんは指導されているチームの選手に対しても、そういう話をすることがありますか?

宇津木:よく話しますね。私は今、東京国際大学女子ソフトボール部の総監督を務めていますが、自分が社会で揉まれてきた経験をふまえて、「はたらくとはこういうことなんだよ」という話をします。卒業して社会に出た選手たちは、「あの時、監督に言われたことの意味が今よく分かります」と言ってくれます。実際に仕事を経験し「こういうことだったんだ」と私の言葉の意味を再確認しているようです。仕事というのは、好き嫌いでやるわけにはいきません。この会場にいる皆さんだって、会社に入って最初の仕事はコピーやお茶くみかもしれない。きれいな仕事ばかりではないはずです。私の場合は社会人生活の最初にトイレ掃除を経験したおかげで、「自分は何でもできる」と思えるようになりました。

裕:学生の時のアスリートの経験は、社会に出てから活きますよね。

宇津木:もちろん活きると思います。アスリートとしての経験を社会で活かすために、自分というものをしっかりと持ってほしいですね。「自分を持つ」ということは、組織の中でリーダーを務める上でも必要なことです。会社の中で言うと、自分の働いている会社がどんな理念や目的を持っているのか。それを明確に理解した上でまわりのメンバーに伝え、引っ張る力が求められます。シドニーオリンピックの時は、キャプテンが、自分を強く持ち、それをきちんと言葉で周囲に伝えることができる人物だったので、チームが1つにまとまり、良い成績を残すことができたと思っています。

「自分自身を知り、チームメイトを知る。」
裕:宇津木さんから見て、全日本に入るレベルの選手は何か共通する点がありますか?

宇津木:まず共通しているのは、人と違った個性を持っていることです。オリンピックの時は、メンバー15人全員がかなりの個性派でした。そして同時に「私はこんなことができる」「自分はあの選手とは違うんだ」という強いプライドをみんなが持っていましたね。だから練習中でもチーム内で激しい意見の衝突が起きます。それくらい、選手たちは自分をさらけ出していました。その選手たちに対して、本当に「これ以上はできない」というレベルまで練習させ、チームを作り上げてきました。

裕:今の時代の若い世代は、どちらかというと「意識が高い」ということが疎外の対象になったりして、自分の個性を出しにくいところがあると感じます。そういう世代の人に対して何かメッセージをいただけますか?

宇津木:私は選手たちに対して、「みんなそれぞれ違っていいんだから」と話しています。「自分はこれができます」というものを15人それぞれが120%出し切れば、必ずチームは勝てるんだと。今日ここにいる学生の皆さんに、簡単なようですごく難しいことをお聞きします。皆さんは「自分自身」ってどういう存在か分かっていますか?私は、選手たちには常に、「まず自分を知りなさい」と言っています。自分はどういう選手なのか、どういう人間なのか。そして、チームメイトのことを知っているか。その分析ができていれば、試合の中で自分のまわりにいる選手がどう動くかが予測できます。常にまわりを見る感性や「感じる力」が重要です。

裕:自分と相手を理解することが、お互いのプレーの質を高めるわけですね。自分をより深く知るために大切なことは何でしょうか?

宇津木:私が今まで大切にしてきたのは、自分と向き合うことです。私は、小学校5年の時からずっと日記を書いているのですが、思考を文字に落とすのも大事なことの1つです。私はこれまで本当にたくさんの失敗をしてきました。どうしようと悩むことも多かったのですが、自分の本音と向き合うことで、前向きに頑張ろうという力を得られたのではないかと思っています。
みなさんも、たまに「練習がいやだな」「勉強が嫌だな」と思うことがあるかもしれません。そういう時こそ、自分と向き合って、「自分はがんばるんだ」「頑張ったらこうなれるんだ」と言い聞かせてみる。自分と向き合うことで、生活パターンを少しでも変えることができたら、大きな成果が出ると思います。
日本の女子ソフトボールチームが金メダルを獲った北京オリンピックの時に面白いことがありました。決勝戦の前日に何名かの選手と話をしていたのですが、彼女たちは「優勝した瞬間にこんなことをしよう」「テレビにこう映ろう」と話していたんですね。そうしたら次の日に、本当にそのシーンが現実になった。イメージトレーニングというやつですね。皆さんも、自分自身と向き合い、未来の自分自身を描いてみてください。願えば必ず叶うというわけではもちろんありません。ただ、願わなければ叶わない。そして、目標を持って精一杯やれば、仮にうまくいかなかったとしても必ず達成感が残ります。だから失敗を恐れずにやってみればいい。失敗から学び、大きく成長していってほしいと思います。

裕:自分のアクションが新しい自分を創っていくということですね。アスリートとしては、もちろん、社会に出てからも非常に勉強になるお話、ありがとうございました。