【元サッカー日本代表DF 波戸康広さん】対談「元日本代表」は、全く必要のないプライドだと思うんです。

「マニュアル化した就職活動はやめよう」と固定観念にしばられない新しい“就活”を提案する『CAMPセミナー』。9月に行われた大阪セミナーでは、元サッカー日本代表で、現在はJリーグの横浜F・マリノス(以下マリノス)でチームアンバサダーを務める波戸康広さんがゲストとして登壇しました。多くの学生の方々に参加いただき、波戸さんと本音トークを交えながらの終始、熱く盛り上がったセミナーとなりました。本レポートでは、そのセミナー後に行われた波戸さんと「はたらクリエイティブディレクター」の佐藤裕の対談の様子をお伝えします。

佐藤裕(以下、裕):波戸さんのお話で印象的だったのは、挑戦にも種類があるということでした。挑戦して失敗をするのか挑戦をしないで失敗するのか。今の学生さんたちは、“やる気ある”“意識高い”系が嫌われる風潮があるため、挑戦にしてもその一歩を踏みだすことを嫌がり、すぐ諦めてしまう世代なんです。

波戸康広さん(以下、波戸):チャレンジすること、挑戦することは本来、すごく格好いいことですよね。

裕:異端児という見方をされるため、そういう文化がないんだと思います。波戸さんは、そう思われたくないという恐れとか、怖いという部分がないですよね。

波戸:なんでも吸収したいという思いが強いからだと思います。恥ずかしいという思いは成長の肥やしです。それこそ、現役を引退して、アンバサダーに就任した際、自分が設立した会社がマリノスからの仕事を請け負うとなった時、僕は請求書の作成の仕方、書類に押す社判のインクの色の使い分けさえも知りませんでした。エクセル、ワードの使い方もわからない。それは経営者としては、恥ずかしいことですよね。でも、チャレンジするってことは、つまり、その分野の初心者でもあります。そんな自分の状況を受け入れ、その次の行動として、知らないことは積極的に学ぶことが大事だと思います。ぼくにとって、新しいことを吸収することは楽しさでもありました。

DFへのコンバートでみせたチャレンジ精神

裕:学びが楽しいと言う波戸さんですが、現役時代はFW(攻撃的ポジション)からDF(守備的ポジション)にコンバート(変更)された経験がありました。それって、会社や組織で言えば、自分の得意とする分野から全く未知の分野へ異動したとか、希望と違う部署に配属されたという状況ですよね。当時の心境はどうだったんですか。

波戸:いい質問ですね(笑)。例えば、会社でも組織でも自分が希望していない所に配属されたらモチベーションは下がりますよね。僕の場合、小中高とFW。国体などで得点王になった経験もあり、鳴り物入りでJリーグに入りました。それが、プロ3年目の時、「お前はFWとしてのセンスがない」って言われました。そして、DFにコンバート。プライドはズタズタです。最初は相当、落ち込みました。でも、またそこで何一つチャレンジしていないのに諦めている自分に気が付いたんです。

裕:そこから、実際にはどんなことに取り組まれたんですか。

波戸:環境に目を付けました。当時のマリノスのDFは日本代表クラスばかり。これだけの経験ある先輩たちに囲まれているんだから、これを活かそうと。一週間の内、2日間は井原正巳さん(現アビスパ福岡監督)の自宅、2日間は小村徳男さんの自宅にそれぞれ行って夕飯をご馳走になりながらDFのアドバイスをもらい、DFについて学びました。そうしていく内に試合出場の時間が5分、10分と伸びてきて、結果、レギュラーに定着しました。日本代表に呼んでもらえたのもDFとしてですから。FWからDFへのコンバートはひとつの転機でしたね。

裕:そのパワーの源はなんだったのでしょうか。

波戸:うまくなりたいという気持ち一心でした。いつか日本代表のDFになりたいと思い続けていました。自分にできるだろうかというプレッシャーもありましたが、それに打ち勝つチャレンジ精神、それに尽きます。

大事なのは相手目線に立つ精神

裕:現役時代の経験で一番、活きているものはなんですか。

波戸:人との関わり方、これが一番ですね。サッカーを小学1年生の時から17年間やってきましたが、特にJリーガー時代にそれをすごく学びました。レギュラー争いはし烈ですから、ライバルとか「あの選手とは気が合わない」と言う選手もいました。でも、そんなふうに自分の中で相手との関係性を遮断してしまうと、目標達成のスピードは遅くなるだけだと思うんです。僕としては、キャンプなどで一度、同じ釜の飯を食べた仲間だからこそ、競争の激しさやプレッシャーがかかる苦しさが共有できると思っていましたし、やはり、人間は自分が好きになれば相手も好意を持ってくれます。その結果、同じ目標をもった確固たる仲間意識が生まれる。それって、人生を切り拓く秘訣じゃないかなと。

裕:なるほど。相手を自分から好きになる、知るという行動は、チームワークという部分で大切なことかもしれませんね。だからこそ今の波戸さんがいるわけですね。

波戸:僕がこうしてアンバサダーをやれているのも、やはり、相手と同じ目線でいかに接するかを大事にしてきたからだと思うんです。それなりの地位を確立した選手っていうのは、目線をなかなか下げにくい。でも、現役引退後はどんな選手でも立場は同じ。この精神を持てるかもてないかが大きい。心のどこかで、自分は元日本代表、トップアスリートと思いながら仕事をすると必ず弊害が出ます。それって、全く必要のないプライドだと思うんです。自分を評価してくれるのは自分ではなく周りの人だから。

裕:確かに必要なプライド、不必要なプライドの選別は大事ですね。学生さんでも、社会に出ると、これまでの自分の成果、経歴にこだわり過ぎて成長できない、それらを受け入れてもらえなくて自分を見失うという話も聞きます。同じことが言えるかもしれません。

波戸:だから、僕の“はたらく流儀”は、自分が成長する上で必要なものは持ち続ける、いらないものは捨てること。そして、いろんな学びを楽しさに変えていく。一日は24時間と決まっています。自分の将来を輝かせるにはどうやったら限られた時間を有効に使えるかどうかではないでしょうか。