小室哲哉さん対談 「偶然性×客観性が、飽くなきチャレンジ精神を生む。」

各業界の第一線で「はたらくを楽しむ」人たちを紹介する「CAPTAIN INTERVIEW」。第2回のゲストはCAMPセミナー@法政大学にもご登壇いただきました音楽家の小室哲哉さん。日本の音楽業界で一時代を築き、今もなお、日本のみならずアジアや米国など世界各国を拠点に活躍し続ける小室さんの『仕事観』には、たくさんのはたらくを楽しむヒントが詰まっていました。

「現実世界の偶然性を味方につける」

佐藤裕(以下、裕):当時の最先端のデバイス、いわゆるシンセサイザーに自ら投資して勝負を仕掛け、“小室旋風”を巻き起こした小室さんは、まさに開拓者というイメージが強いのですが、一方で、今の学生は、自分への投資を躊躇する傾向があります。失敗やグループから外れることを極端に恐れる“挑戦しない世代”とも言われているのですが、そのあたりどう感じますか。

小室哲哉さん(以下、小室):そうですね。これだけSNSが発達した情報社会ですし、そうなるのは仕方がないとは思います。でも、ソーシャルって現実と仮想現実が一体化しているようで実は行きつくのは仮想現実の世界です。現実の世界で動きだすには、エネルギーがいりますし、手間もかかります。そのステップを飛び越してネット上で答えを導きだすのは簡単ですが、そこにはサプライズもハプニングも存在しない。ネット上だけで将来を決めるということは、想定の範囲内で人生を決めるということであり、もったいないと僕は思います。現実世界でこそ予想もしなかった出会いや学びが存在するのです。

裕:まずは実際に動くことがサプライズを呼び込むということですが、その中でも特に大切にしていることはありますか。

小室:雑談ですね。顔を合わせて話す時の空気感やそこからの発想の広がりってソーシャルの世界では創れないと思うんです。同じ空間で話すことで、文字にするほどではないかもしれない「今、思いついたんだけど」というふとした意見をぶつけやすい環境が生まれる。僕は、そういう雑談を大切にしてきたから今があります。

「人の心を動かす“余白”の力」

裕:他にも大事にされていることはありますか。

小室:「客観の目」を持つことですね。はたらくことで僕が重視しているのは、最終的にどれだけ自分が社会にプラスの影響を与えられるかということ。スポーツなど数字や勝ち負けが明確に出る世界は、その成果が分かりやすいと思うのですが、僕の仕事は、人の心を動かせるかどうかが全て。動かせなくては意味がないんです。
では、どうやって人を動かすかというと、1つは、人が口コミをしたくなるような、メディアが取り上げたくなるようなトレンドを生んでいくこと。それには自分の考えを押し付けるだけでは絶対にダメで、その考えに相手がどんなリアクションをしているのか?今の世の中からどう見えるのか?そんな俯瞰で物事全体を見る余裕を残してくことが必要です。そして、何があっても臨機応変に対応できる余力を自分の中に残しておくことも大事になってくるんです。

裕:一歩引いて自分を見る余裕を持つということですね。ちなみに、余力を残すというのは学生さんにとって今の社会、なかなか難しいという印象もありますが、いかがでしょう。

小室:そうですね、社会では余力を残していると「何、手を抜いてるんだ」と言われますからね(笑)。本当に最後の仕上げのところでは100%でいくことは必要だと僕も思います。ただ、その前の決め込む部分では、自分に余白を作ることはすごく大事だと思います。最初からまったく余裕のない全速力の状態で行くと途中で「あれ?何か違う」と思った時に引き戻せないし、またゼロからやり直しだと自分を責めてしまうのではないでしょうか。

裕:そういう自分の余白をもっていれば、失敗を恐れないチャレンジ精神が生み出されるということですね。

「自分の気持ちをコントロールするルーティーンを持とう」

裕:音楽活動を長く続ける中でどうやってその創作意欲を維持されているんですか。気持ちが沈む時はあるんでしょうか。

小室:気持ちが沈むことはよくありますね。そういう意味では、創作意欲を維持する秘訣は気持ちをコントロールすることです。ライブなどは気持ちが最高潮に上がりますが、終わった後はなんとも言えない虚無感に包まれます。だから、ドン底に自ら落ち切らないようにする、ということをルーティーンでやっています。

裕:そのルーティーンとは具体的にはどういうことをされているんですか。

小室:一番は、自分と関係ないものに触れること。家族やテレビドラマでもなんでもいいんです。例えば、サッカーゲーム。試合開始から50分頃に自分がリードしているとします。僕はその時点でゲームを終わらせます。最後までやる必要はなくって、自分の気持ちが上がってきたことを感じることが大事だから。

裕:なるほど、今の学生はそういう手段がなかなか見いだせず悩んでしまうのですが、大小問わず、全く違う環境に一度身を置いてリセットすることは、いい影響を自分自身に与えるわけですね。

小室:あとは人に褒めてもらうこと。些細なことのようでこれもすごく大事です。僕は学生時代、美大生とお付き合いしていたことがあるんですが、創造の感性が合っていたのか僕の音楽に関していつも褒めてくれました。迷った時、つまずきそうな時、一人でもそういう存在がいると自分を肯定できる。人間って感情を持つ生き物ですから、人との関わりはやはり、日常にエモーショナルなものを与えます。そこをうまく活かしながら自分をコントロールしていくことですね。

「はたらくをたのしむとは?」

裕:最後になりますが、小室さんにとって「はたらくをたのしむ」とはなんでしょうか。

小室:僕自身は、ここまでのキャリアを振り返ってみても、『はたらく』という感覚が実はなくて、『創る』という言葉がしっくりきます。仕事をするために集まったひとつの集合体があるとします。でも、それは、『はたらく』ために集まったものではなく、『自分を創るため』に生きている集合体だと思うんです。自ら動いて、偶然と出会い、感情の起伏も経験して、どれだけ「自分を創る空間」を主体的に作れるかが大事ですよね。それができれば『はたらく』=『自分を創る』という感覚に近づいていき、はたらくを楽しむことに繋がっていくのではないでしょうか。

 

<小室哲哉さんプロフィール>